はじめに
近年、在留外国人への生活保護を見直すべきではないか? という話題をよく耳にします。
「それで何かが解決するのだろうか?」
というのが正直な感想です。
――日本人に金を使え!
皆、感情的になっているよね、と思います。
統計
現時点で政府は、外国人への生活保護費の総額を毎年公表していません。
そのため、正確な年間総額は分かりません。
ただし、公表されているデータからおおよその規模は推測できます。
- 生活保護を受給している世帯は全国で約164万世帯です。
- このうち、世帯主が外国籍の世帯は約4万7千世帯で、全体の約2.9%です。
日本の生活保護費(国・地方を合わせた年間支出)は、
――近年約3.7~3.9兆円規模で推移しています。
もし外国籍世帯の保護費が世帯数にほぼ比例すると仮定すれば、
- 3.8兆円 × 2.9% ≒ 約1,100億円/年
という概算になります。
――ただし、この計算には重要な注意点があります。
- 外国籍世帯と日本人世帯では、世帯人数や年齢構成、医療扶助額が異なる可能性があります。
- 厚生労働省は「世帯主が日本国籍を有しない被保護世帯における医療扶助額等調査」は行っていますが、外国人全体の年間保護費総額は公表していません。
したがって、約1,000~1,100億円程度という数字は、世帯割合から単純推計した概算であって、公的な確定値ではありません。
あまり正しく知られていないこと
外国人の生活保護については、SNSなどで「外国人は簡単に生活保護を受けられる」「外国人なら誰でも対象になる」といった意見を見かけます。しかし、制度の実態はそれほど単純ではありません。
まず、日本の生活保護法は、条文上は「国民」を対象としています。そのため、外国人には日本人と同じような法律上の受給権があるわけではありません。最高裁判所も2014年判決で、「外国人には生活保護法上の受給権は認められない」と判断しています。もっとも、この判決は「外国人には生活保護をしてはいけない」と述べたものではありません。
現在、外国人への生活保護は、1954年の厚生省通知に基づき、人道的な行政措置として運用されています。つまり、法律上の権利ではなく、行政上の措置として保護が実施されているというのが現在の制度です。
誰が対象になるのか
ここで誤解されやすいのは、「外国人」と一口に言っても、在留資格によって扱いが大きく異なることです。行政措置の対象となり得るのは、日本で長期・安定して生活することが予定されている外国人です。代表的には、①永住者、②特別永住者、③定住者、④日本人や永住者の配偶者等、⑤難民認定者や補完的保護対象者(多くは定住者資格が付与される)などです。
これらの人々は、日本で長期間生活することを前提とした在留資格を持っているため、生活に困窮した場合には行政措置による保護の対象となり得ます。
一方で、⑥留学生、⑦技能実習生、⑧育成就労制度の対象者、⑨多くの就労ビザ(技術・人文知識・国際業務など)、⑩短期滞在者は、日本で自立した生活を営むことを前提に在留が認められているため、原則として生活保護の対象とは考えられていません。生活困窮が生じた場合には、まず本人の資産や扶養、勤務先の対応、帰国支援などが検討されます。
「外国人」と一括りにすると議論を誤る
そのため、「外国人が生活保護を受けている」という表現だけでは、実態は分かりません。日本で何十年も暮らしてきた永住者と、日本に来たばかりの留学生や技能実習生では、制度上の位置付けがまったく異なるからです。生活保護制度を議論するのであれば、「外国人」という一括りではなく、「どの在留資格の人を対象に議論しているのか」を区別することが不可欠です。
問題意識
採用時や就職後の職場における外国人への不利益な扱いが仮に存在したとします。その状況が改善されないまま公的扶助が縮小された場合には、生活のために職業選択の幅が狭まるのではないでしょうか。その結果として日本人が敬遠する職種に就く外国人が増える可能性があります。
⇒ 行き着く先は差別の固定化です。
というか既に起きている気がします。
統計調査や学術研究がないだけで、体感としてはそれが現実世界であるような気がします。
外国人は本当に日本企業でキャリアを築けているのか
日本の大企業では、一般的に新卒一括採用から始まり、OJTを通じて経験を積み、年齢とともに役割を変えていく人事制度が採られてきました。
若いうちは現場の実務を担当し、中堅になると後輩を指導し、さらに経験を積めば管理職として組織運営に携わる。このようなキャリアパスは、日本企業では珍しいものではありません。
もちろん全員が管理職になれるわけではありません。しかし、多くの社員は年齢とともに仕事内容が変化し、経験を生かせる役割へ移行していきます。
私は、この仕組み自体が中高年の雇用を支えている面があると考えています。
見ようによっては企業のなかで配慮があるようなもの
中高年の労働者は、
- 管理職へ昇進する
- 後輩の育成を担当する
- 責任は増える一方で、若い頃と同じような体力勝負の仕事からは徐々に離れる
- 経験を生かした業務へ配置転換される
といった、年齢に応じた役割の変化が起きます。もしこのようなキャリア形成が十分に行われなければ、人は年齢を重ねても若い頃と同じ仕事を続けるしかありません。体力や適応力が落ちれば、仕事を続けることは次第に難しくなるでしょう。
日本人にも、中高年になって、若い頃のようにやっていくことが難しくなり、生活保護受給者になるひとは少なくありません。大学生や二十代の若者が、思い立って運輸やコンビニで働く感覚では生きていけなくなるひとは、まったく珍しくありません。

外国人はどうなのか
ここで疑問が生まれます。外国人ホワイトカラーは、日本人と同じようなキャリア形成ができているのでしょうか。現時点では、「外国人は管理職になれない」と断定できる統計はありません。
一方で、外国人留学生や高度外国人材を対象とした研究では、
- キャリアパスが見えにくい
- 昇進機会に課題を感じている
- 日本企業特有の人事制度に適応しづらい
といった指摘がなされています。
つまり、「外国人だから差別されている」とまでは言えなくても、日本人とは異なるキャリアを歩んでいる可能性は十分考えられます。
生活保護との関係
ここで私が考えているのは、次のような仮説です。
もし外国人が日本人ほど長期的なキャリア形成の機会を得られず、年齢を重ねても役割転換が十分に行われないのであれば、中高年になって仕事を続けることが難しくなる人も増えるかもしれません。
さらに、そのような状況のまま公的扶助を縮小すれば、生活のために選択肢が限られ、日本人が敬遠する仕事へ集中せざるを得なくなる可能性があります。
あるいは、日本での生活を断念して帰国したり、別の国へ移ったりする人も出てくるでしょう。
もちろん、これらは現時点では仮説であり、「必ずそうなる」と言えるだけの統計はありません。
しかし、「生活保護を打ち切れば働くだろう」という単純な議論だけでは見えてこない問題があるのではないでしょうか。
日本人にも当てはまる問題
実は、この問題は外国人だけの話ではありません。
日本人でも、長年非正規雇用を続け、企業内でキャリア形成が進まなかった人は、中高年になると再就職が難しくなるケースがあります。
つまり、本質的な問題は国籍ではなく、
「年齢とともに役割を変えながら働き続けられる人」と、「いつまでも同じ実務しか任されない人」との格差
なのかもしれません。
外国人は、その後者に入りやすい構造があるのではないか。
この点については、今後さらにデータと研究の蓄積が必要でしょう。
おわりに
外国人への生活保護の是非は、政治的にも社会的にも意見が分かれるテーマです。
しかし、その議論を行うのであれば、「外国人は日本で日本人と同じようなキャリアを築けているのか」という問いも同時に検証されるべきではないでしょうか。
採用の公平性、昇進機会、長期的なキャリア形成、そして中高年になったときの雇用の安定性。
これらを総合的に見なければ、公的扶助だけを切り離して議論することは、問題の全体像を見誤ることにつながるかもしれません。

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